大判例

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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)2490号 判決

一、このように、不動産に対する仮差押執行後その被保全権利が消滅したときは、仮差押債権者は右執行を取り消す手続を為すべきであり、その過失によつて仮差押の登記をそのまま放置し、よつて仮差押債務者に損害を生ぜしめた場合には、仮差押債権者は、不法行為を原因としてその損害の賠償をなすべき義務がある。そして原審証人中安真治郎、新井イトの各証言および原審における控訴人本人尋問の結果(第一回)を総合すると、昭和三五年六月中、控訴人が本件宅地の一部約三〇坪を日光市に住む歯科医新井重男に売却しようとしたが、新井は買受ける土地を担保に買受代金の融資を受ける了解を予め銀行より取付けようとし、その際本件土地に仮差押の登記があることが控訴人、被控訴人のほか右新井重男、同人の妻新井イトおよび栃木相互銀行今市支店の係員の知るところとなり、同銀行では新井に対し既に相当額の貸出があるのでその上さらに貸増しをすることを内心好まなかつたため、表面上は新井に対し、右のような負担のある土地は買はない方がよいと勧めたこと、右売買は結局代金額につき双方が一致しなかつたため不調に終つたことを認めることができ、これによれば本件仮差押登記の残存したことにより控訴人の信用および名誉がある程度害されたことを否定することはできず、それは被控訴人の過失に因るものと認むべきであるから、被控訴人はこれによつて控訴人に与えた精神的苦痛につき損害賠償の義務がある。

二、ところで民法第七二四条によると、不法行為を原因とする損害賠償請求権は、「被害者ガ損害及ビ加害者ヲ知リタル時ヨリ三年間之ヲ行ハザルトキハ時効ニ因リテ消滅ス」るのであるが、右法条にいう損害を知るときは、損害の発生自体のほか加害行為が不法行為となることを併せ知るの意と解すべきであり、控訴人の主張するように弁護士に相談して慰藉料請求権を有することを知るに至ることまでは必要ではない。本件においては、成立に争のない甲第一号証、同第三号証の一、同第四号証の一、二、原審証人田野井輝吉の証言並びに原審における控訴人(第一、二回)及び被控訴人各本人尋問の結果を総合すれば、控訴人は昭和三二年六月五日被控訴人に金三万三千五百円を支払うと同時に債務の残額がないことを承認させ、その旨の証書の交付を受けたこと、被控訴人は同月中本件仮差押申請のため供託した担保につき、担保の事由が消滅したものとして控訴人に対する権利行使の催告手続をとり、所定期間内に控訴人からの権利行使がなかつたため担保取消につき控訴人の同意があつたものとみなされて担保は取り消され被控訴人に返戻されたこと、このようにして当時被控訴人には本件仮差押の登記を存置すべき理由も意思もなく、そのことは控訴人にとつても当時から明らかであり、昭和三五年六月中前記のように右仮差押登記が未だ抹消されていないことが判明し、控訴人がこれによつて損害を受けるや控訴人は直ちにそれが被控訴人の過失に基因する不法な行為によるものであることを知り、被控訴人との交渉を試みることなく同年七月一日直ちに被控訴人を相手方として右仮差押登記の抹消登記手続をせよとの訴を宇都宮簡易裁判所に提起したことが認められるのであつて、このように控訴人が昭和三五年六月末日までに被控訴人の右不法行為によつて損害を受けたことを知つた以上、その後三年を経過した昭和三八年六月末日までには控訴人の右不法行為を原因とする損害賠償請求権は時効により消滅したものであり、控訴人が本訴を提起したのは昭和三九年七月三一日であることは記録上明らかであるから、控訴人の本訴請求は理由なきものというべきである。

(小沢 鈴木 館)

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